雨とほうれん草

18時53分、私は本郷三丁目にいる。地下鉄大江戸線に乗って会社から帰宅する途中。空気はなまあたたかいが、不快なほどではない。

 

目の前に座っている40代後半だと思われる男性の、白く大きなビニール傘が目を惹く。とてもきれいな傘だが、鋭さがある。新御徒町。新御徒町。アナウンスが聞こえる。please change hereの次は分からなかった。expiredと言ったように聞こえるが、多分ちがう。アナウンスによると、新御徒町は仏壇制作が盛んらしい。

 

人がずるずる下車してしまって、赤ワインが腐ったような色の座席はくらく沈んだ。蔵前。蔵前。わたしはひたすら携帯のボタンを連打しているだけだ。すぐに電車は進んでしまう。進んでしまうことは、私とは全く無関係な機構やシステムによる。地下鉄はずんずん進む。大きな音がする、腹に響くトンネルの低い轟音が聞こえる。敵意を消してしまった私は、相変わらず文章を書けない。仕事で先鋭的ななにかを目指すことを諦めて、今日の夜はほうれん草と肉を混ぜて焼いた料理を食べる。

 

駅の外は雨だ。地面が光る。怪物のような車がたくさん地面をこすりながら走る。水がタイヤと地面のあいだで擦れる音が聞こえる。溜まる水。弾ける雨。

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tsukimi03

最近ピンク色のオーラをまとい、ハッピーライフを満喫している。 一部のメンバーに「爆発しろ!」とか言われているが、むしろたまに突然爆弾を投げ込んでくる要注意人物である。 しばしば虫への愛が爆発しすぎる時がある。

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