陽気な国の悩む奴ら

 メキシカンは陽気だと言われる。実際オリンピックの入場時の彼らは明るい笑顔を振りまき大きいジェスチャーでひときわ目立つ。だからといって悩みがない訳ではない。メキシコでも多くの問題を抱えている。それは世界共通のものかもしれない。

 ロベルトは今日も課題提出に間に合わず、一人学校に残って書き物に追われていた。

「やあ、ロベルト。課題が終わったら校庭でサッカーでもしないかい」
友人のエンリケが声をかけてきた。

「ああすまない。あと少しだ」
ロベルトは顔を上げて答えた。

 ロベルトは発達障害だった。よくメキシコは陽気な国だからTDAH(スペイン語圏でのADHDの呼び方)者には暮らしやすいと思われているのかもしれないが、困る物は困るのである。

 課題が終わって、人気のない職員室に提出しに行った。その帰り校庭に寄ってサッカーボールを蹴る。協調性運動障害のあるロベルトの動作はどことなくぎこちなかった。

「宿題の遅れは誰にでもある。気にするな」
 おそらくエンリケは親切心で言っているのだろう。それはわかるのだがロベルトには自分のTDAHを否定されているような気がして嫌だった。

 二人の間をサッカーボールが往復する。でも心は通わない。発達障害者と定型発達者の心の溝はなかなか埋まらない。ロベルトはそんな気がした。

 家に帰りツイッターを開けると、見慣れない文字のツイッタラーがフォローしてきた。どうやらハポンの人らしい。ADHDの文字が見える。スペイン語はまだできないみたいだ。
「衝動性の強いTDAHらしいな」ロベルトはちょっとニコッとした。

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ベリー

ASD+ADHD小説やイラストを描いています。50代男。アイコンはスーパー美化というより別人。ロシア語をちまちま勉強。趣味垢@37Zn8N4P4dGvct3    

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