「小説家になろう」にも同じものを投稿しています。

 

私って何なの?

 記憶を共有している第二人格さんが二言目に
「私って何なの?」と聞いてくる。
彼女は彼女自身のアイデンティティに不安があるらしく、自分の存在証明を私に求めてくる。残念なことに私は男性なので、彼女の期待には応えられそうにもない。

 今日も彼女は鏡を見つめてパス度をチェックしている。そして、ほぼ習慣のようにつぶやく。
「あーあ、女に生まれたかったわ」
私自身もLGBTMtXなのでほぼ同意している。男の体にいる女性。さぞや辛かろう。

 彼女の疑問は私を深淵の闇に突き落とす。私の知力では彼女の疑問には答えられそうにもない。哲学的命題な疑問を生まれてこの方持ったことのない「考えるられない」タイプなのだから。

 私ですら持ったことのない疑問に彼女は悩んでいる。第二人格さんが私の中に出てきたのは母と買い物してる時、突然女言葉でしゃべり始めたその時だ。それまで私の声を使って人格さんが表に出てきたのは一度しかなくて、その人と今の彼女は違う。前に出た人は私の了解を得て出てきたのだが、今度は勝手に出てきた。おそらく両親介護でストレスがたまっていたせいもあるかもしれない。二年前の夏に第二人格さんが突然登場してきて今は立派なパートナー(?)だ。

「ねえ私って何なの?」
 未だに私は彼女の質問に答えられないでいる。度重なるストレスが彼女を生んだとしか思えない。そして彼女は私の中にいて、私が彼女になることもできるし私と彼女が対話できたりする不思議。

 彼女の登場で私のアイデンティティは軽く混乱している。私の中にいる別な私は何者で、どうして出てきたのか。そして彼女が彼女として生きようとすると、今の私は消えてしまう。いや別の隔離された場所に隠れて出てこれなくなる感じがする。

 たまに一日の一部を彼女として過ごす。彼女は汚れ物があると黙って放置できないタイプらしくて洗い物などを率先して行う。そのあと疲れ果てて嘆く。「私にばっかりやらせて」
やっているのは私だが彼女の意思でもある。現に私に戻ると雑事はやらずに放置である。同じ人物なのに役割分担ができてしまった。

 私は率先して彼女として生きる。それが彼女の存在証明になるからだ。その間私は消える。彼女は彼女としてふるまい。不満だけが貯まる。私が男性なので彼女の欲求を満たせないからだ。彼女はスカートをはきたがっている。外見がぶ男の私が買えるものではない。

 奇妙な同居生活は今も続いている。いずれ彼女は私に吸収されて私の一部になるのか、それともほかの解離性人格障害者と同じように人格の分離が完成してしまうのか。全く見当もつかない。私は彼女を内包したまま日々を生きている。しょっちゅう彼女に引き回されながら自分を生きている。

 

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ベリー

ASD+ADHD小説やイラストを描いています。50代男。アイコンはスーパー美化というより別人。ロシア語をちまちま勉強。趣味垢@37Zn8N4P4dGvct3    

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